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建設業における死亡事故の傾向
2023年9月19日午前、JR東京駅八重洲口近くのビルの建設工事現場で、クレーンでつり上げられていた鉄骨が落下し、作業員5人が巻き込まれ、このうち2人が死亡する事故が発生しました。
この事故では、長さ30メートル、重さ15トンほどの鉄骨をクレーンでつるし、その上に5人が乗って、ほかの鉄骨と固定する作業をしていたとみられるということです。
ところが、何らかの理由で突然、鉄骨が落下し、5人もいっしょに3階部分まで転落したとみられるとされています。
厚生労働省がまとめた2023年の労働災害発生状況によれば、建設業全体の死亡者数は223人と全産業の約30%を占め、業種別にみると最も死亡者数が多かったとされています。
そして、死亡者223人の事故の型をみると「墜落・転落」で亡くなったのが86人。
実に死亡災害の40%を占めており、「墜落・転落」が建設現場における重大事故の発生する大きな要因と考えられます。
休業補償給付・障害補償給付の流れ
業務中や通勤中の事故等で負傷したときは、労災保険の適用となり、労災保険扱いでの治療が受けられ、休業中は休業補償給付を受けることができます。
また、障害が残った場合には、障害補償給付が受けられます。
手続としては以下のような流れになります。
従業員が労災発生を会社に報告する
労働災害が起きた場合、被災した従業員はまず会社に事故を報告します。
労災の請求書を労働基準監督署長に提出する
次に、労災保険給付の請求書を作成して労働基準監督署長へ提出します。
これは会社を通じて提出することも、従業員が直接労働基準監督署長に提出することも可能です。
労働基準監督署長において調査が行われる
労災の調査では、従業員が労災申請した病気やケガが、業務によるものかどうかという点が調査されます。
労災給付決定
労災に認定されると保険給付を受けることができます。
労災に該当しないという不支給決定が出た場合、その決定に不服があれば、管轄労働局に対して審査請求をすることができます。
上記のとおり、労災の認定を受けると、一定の保険給付を受けることができます。
しかし、労災保険からの給付には慰謝料に相当する金額は含まれておらず、休業補償によっても事故前の収入と同じ水準の給付は得られません。
また、後遺障害が残った場合、障害補償給付だけでは後遺症による将来の収入減少への補填が必ずしも十分とはいえない場合があります。
労災により負傷した場合には、まずは弁護士にご相談いただき、手続きの方法や注意点についてご相談いただければと思います。
建設現場での労災事故で会社に損害賠償できる場合
しかし、建設現場での転落事故について、会社の側に安全配慮義務違反があれば、会社に対して損害賠償請求をすることによって、労災保険給付だけではカバーされなかった上記の慰謝料等についても必要な賠償を受けることができます。
【会社に損害賠償しうる事案の例】
例えば以下のような事情があれば、会社の責任が認められる可能性があります。
高さ2メートル超の箇所での作業で転落したが、足場を設置するなど落下防止の措置が講じられていなかった
労働安全衛生規則518条は、高さ2メートル以上の箇所で作業をさせる場合には、足場を組み立てる、防網を張る、墜落制止用器具を使用させる等、墜落・転落の危険を防止する措置をとらなければならないと定めています。
高さ2メートル超の箇所での作業を命じられたにもかかわらず、上記のような転落防止措置が何も講じられていなかった結果として転落し、負傷した場合、会社には法令違反がありますので、安全配慮義務違反が認められ、会社の賠償責任が認められます。
また、会社は、高さが2メートル以上の箇所において作業床を設けることが困難な場合で、フルハーネス型墜落制止用器具を用いて行う作業に係る業務に就かせる労働者に対し、特別教育の実施が義務付けられています。
従業員に対して必要な教育を実施していなかった場合にも安全配慮義務違反が認められるでしょう。
経験不足の従業員に一人で屋根上での作業を命じていた
会社は高所での作業を一人の従業員で行うことがある場合には、当該従業員が自ら必要な安全上の措置を講じられるように、適切な研修ないし指示、指導をすべき義務があるとされています。
新しい従業員を雇い入れたとき、雇っている従業員の作業内容が変更されたときには安全衛生教育を実施しなければなりません。
必要な研修を行ったり適切な作業マニュアルを作成したりといった十分な教育を行わないまま単独で現場作業を行わせ、結果として転落事故を招いた場合、会社側の安全配慮義務が認められるでしょう。
脚立の天板に乗って作業していたところ、バランスを崩して転落した。
天板に乗っての作業は不安定なため、脚立の危険な使い方として禁止されています。
天板に乗らないと届かない箇所の作業をしなければならないなら、安全な代替策を検討して作業すべきです。
会社側が必要な足場などの機材を提供していなかったり、現場監督が天板での作業を指示した結果として転落事故が発生した場合、会社の安全配慮義務違反が認められ、会社の賠償責任は肯定される可能性が高いでしょう。
まとめ|労災については弁護士にご相談を
建築現場で労災事故に遭われて、後遺障害の認定、会社の対応などでお悩みの方はぜひ一度、労災問題に注力する弁護士法人リブラ共同法律事務所の弁護士へご相談なさってみてください。